てっきりフィクションだと思って読み始めた。
ところが、読み進めるうちにやけに具体的な歴史背景の描写が出てくる。
気になって調べてみると、史実に基づいた物語だと知った。
ただの創作だと思って読んでいた分、急に重みが増した。
物語は軽快に進む。
テンポもよく、読みやすい。
でもその背景には、自由にものが言えない時代の、暗く厳しい現実がある。
売文社の社長・堺利彦。
辛さや怒り、熱い思いを胸に秘めながらも、表では飄々としている。
焦らず、騒がず、耐え、機を待つ。
そしてその時が来たら、迷わず行動する。
その姿が、とにかくかっこいい。
声を荒げるわけでもなく、
派手に自己主張するわけでもない。
でも芯は揺るがない。
こういう人が実在したのだと思うと、胸が熱くなった。
歴史の教科書ではさらっと流れてしまう名前の裏に、
こんな人間の息づかいがあったのかと思うと、見え方が変わる。
自分には「何かを成し遂げたい」という大きな野望はない。
強い思想を掲げて生きているわけでもない。
それでも、
信念を持って生きる姿には素直に憧れる。
派手じゃなくていい。
声が大きくなくてもいい。
ただ、自分の中に一本筋が通っている人。
そんな生き方が、静かにまぶしく感じた一冊だった。

